大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)237号 判決
訴外長浜市農地委員会が長浜市三ツ矢字法正町一五一番地の一、田一反二畝二三歩に対し、昭和二四年五月六日定めた農地買収計画に関する控訴人の訴願に対し被控訴人が同年六月三〇日なした右訴願棄却の裁決はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴人において、自作農創設特別措置法(以下、法と略称する)五条五号の定める農地は、二、三年内に使用目的を変更する必要があり、且それが具体的に計画されてをり、その計画を行政庁において承認し指定したものに限ると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。(証拠省略)
三、理 由
先づ、被控訴人は本案前の抗弁として、本件買収計画の取消を求める訴はその処分庁である長浜市農地委員会を被告とすべきものであり、被告を誤つているから不適法として却下さるべきものであると主張するが、当裁判所は原審と同様の理由により右抗弁を採用しないので、この部分についてここに原判決の理由を引用する。
よつて、進んで本案について考えるに、訴外長浜市農地委員会が控訴人所有の長浜市三ツ矢字法正町一五一番地の一、田一反二畝二三歩に対し法三条一項一号に基き昭和二四年五月六日農地買収計画を定め、これに対し控訴人は同年五月一六日異議を申立てたところ、同年同月二六日異議却下され、更にこれに対し控訴人は同年同月三〇日被控訴人に訴願したところ、被控訴人は同年六月三〇日同訴願を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。控訴人は本件農地は法五条五号(農業委員会法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律による改正前のものに従う、以下同じ)にいう近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地にあたると主張するからこの点について考えるに、成立に争いのない甲三号証、同五号証の一、二、当裁判所が真正に成立したと認める甲四号証、原審証人園田正二、当審証人板並昇太郎、同伊藤昇二、の各証言、当審における控訴人本人の尋問の結果並びに原審及び当審における検証の結果を綜合すると、本件土地は長浜市の東北部、大津市より福井市に至る南北に通ずる県道(幅約八米)にそうてその東側にあり、長浜駅より本件土地に至る道程は約一、二〇〇米で、その道路両側には住宅、商店が立並び、更に本件土地より県道を約一五〇米北上すると東西に通ずる北陸道(幅約六米)と交叉し、その交叉点の東南方に僅かの空地(当審の検証の結果によると、この空地上に建物を建築する準備中であることが窺われる)があるほか、本件土地と右交叉点との間の県道は勿論、右交叉点附近の県道(交叉点の北方)及び北陸道の両側には住宅、商店、倉庫、車庫その他の建物が立並び、県道上から見ると、独り、本件土地のみが農地として取り残されていること、本件土地の東側は木皮板の柵を隔てて長浜ゴム工業株式会社所有の工場用の土地(地目、宅地)となりその東部に倉庫が建てられてあること、本件土地を含めてその南側も元、控訴人方の所有地であつたが南部は早く宅地化されて、その上に住宅が建てられ本件土地が残されたのであるが、戦時中に前記長浜ゴム工業株式会社の前身三菱化成工業株式会社から工場用地として買収の申入があつたが、実現に至らずして終戦になり、その後、他より本件土地を宅地として利用する目的をもつて借受又は買受の申込があり、控訴人もまた、本件買収計画が定められる以前より本件土地を宅地として利用する意思を有していたこと、本件土地は反別一反二畝二三歩で、田及び畑に分れ、本件買収計画が定められた当時の賃借人は訴外伊藤丈太郎及び三橋与吉であつて、伊藤丈太郎は約四畝歩耕作していたが、当時老齢であり(同人はその後昭和二四年一〇月死亡)、息子は彦根市内の木工会社で働いていたので耕作地を返還する意思を有していたこと及び三橋与吉は約七畝歩を賃借していたが自ら耕作せず訴外西川孫七に耕作せしめていたことを各認定することができる。右認定を動かすに足る証拠がない。以上の認定事実から考えると本件土地は法五条五号にいう近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地にあたるということができる。
被控訴人は本件農地については法五条五号の農地委員会の指定がなされてをらず又控訴人もその指定を求める手続をしていないから長浜市農地委員会が本件農地について買収より除外しなかつたことは違法でないと主張するからこの点について判断するに、本件において法五条五号の農地委員会の指定がなされていないこと及び控訴人においてその指定を求める手続をしていないことは控訴人においても争わないところであるが、法五条五号において近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地を買収から除外している趣旨は、かような土地は、農地としてよりも耕作以外の目的に使用する方がその利用価値を増進するものであるから法三条の原則に対して、特に重大な例外を設けたものと解すべきである。したがつて、農地が客観的に近く土地使用の目的を変更することを相当と認められる以上農地委員会としては必ず買収除外の指定をなすべきであつて、これをなさないで買収計画を定めることは違法であり、この違法な買収計画に関する訴願を棄却する裁決も違法である。農地所有者は右買収計画及び裁決の取消を訴求することができる。このことは農地所有者が右指定を求める手続をすると否とを問わないし、又法五条五号は被控訴人主張のように使用目的を変更する必要があつて具体的になされた計画を行政庁において承認し指定したものに限ると解すべきでない。
尤も、右訴求を許すときは農地委員会の権限に属する指定という行政処分を裁判所が同委員会に代つてなしたと同様な結果を生ずる判決を求めることになるが、かような結果は右訴求を認容した判決の、間接の効果ともいうべきものであつて、その判決によつて裁判所は直接農地委員会に代つて指定をするのではないからこれによつて行政権を侵すものではないと考える。もし右の訴訟が許されないとすると行政庁が自らなすべき行政処分をなさないで、前提となるその行政処分がなされていないことを理由に国民の権利を侵害する行政処分をなしているのに対し国民は救済を求める方法がないことに帰し、不当な結果となるからである。
そうすると、本件土地は法五条五号により買収より除外すべき土地であるにかかわらず買収すべきものとして訴外長浜農地委員会が昭和二四年五月六日定めた買収計画及びこれを容認して控訴人の訴願を却下した被控訴人の裁決はいづれも取消すべきであるから、その取消を求める控訴人の本訴請求は理由があり、これと趣旨を異にする原判決は不当である。よつて民事訴訟法第三八六条、九六条、八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)
原審判決の主文および事実
一、主 文
原告の各請求はいづれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は訴外長浜市農地委員会が原告所有の長浜市三ツ矢字法正町百五十一番地の一田一反二畝二十三歩に対し昭和二十四年五月六日定めた農地買収計画並びに右計画に関する原告の訴願に対し被告が同年六月三十日為した右訴願棄却の裁決はいづれもこれを取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として訴外長浜市農地委員会は昭和二十四年五月六日右土地に対し自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第一号により農地買収計画を定めたので、原告はこれに対し同年五月十六日異議を申立て同委員会が同年同月二十六日右異議を却下した決定に対し同月三十日更に被告に訴願したところ、被告は同年六月三十日右訴願を棄却する旨の裁決を為し、同裁決書は同年七月十日原告に送達せられた、しかしながら右農地は本件買収計画決定当時から、その東隣は訴外三菱化成工業株式会社の工場用地であり、西隣は長浜市内目抜の県道に面し、南北両隣も同様市街を為す人家に接し、その周囲が殆んど長浜市街地に囲まれている状況にあるので、近くその使用目的を宅地に変更することを相当とする土地であり現に滋賀県農地委員会においても、右農地を将来自創法第五条第五号の指定をなすべき予定地域に含ましめる旨の決議が為されているのであつて、右農地は客観的に自創法第五条第五号にいう近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地に該ることは明瞭であるから、右農地は自創法第五条によつて当然買収することの出来ない農地なのである従つて、右の事実を無視して長浜市農地委員会が定めた本件買収計画並びに同計画を適法と認めて原告の訴願を棄却した被告の裁決はいづれも違法であるからその取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告の答弁に対し、本件農地につき自創法第五条第五号の指定がなされていないことは認めるが同条は現実に同条第五号の指定がなされていなくても客観的状況よりみてその指定をなすを相当とする農地はすべて買収より除外する趣旨に解すべきものであると述べた。(立証省略)
被告指定代理人等は本案前の抗弁として本件買収計画の取消を求める訴はその処分庁である長浜市農地委員会を被告とすべきものであり、被告を誤つているから不適法として却下せらるべきものであると述べ本案につき主文と同旨の判決を求め答弁として、原告主張事実中その主張の各日にその主張通りの買収計画の樹立、異議申立、同却下決定、訴願、同棄却裁決、同裁決書の送達がそれぞれ為されたことは認めるが、その余は全部争う殊に本件農地については未だ自創法第五条第五号の農地委員会の指定がなされて居らずまた原告も今日まで右指定を求める何らの手続を履んでいないのであるからこれを買収より除外しなかつたことには何等の違法もないと述べた。(立証省略)